家づくりの過程の中で、自分たちでできることは自分でやってみることを積極的に提案しています。その理由は3つあります。

まず一つ目は、家づくりの現場で、家を建てる皆さんと職人さんの距離を縮めることができるからです。
現在の家づくりの世界で問題になっている原因を探ると、私は住まい手と作り手があまりにも疎遠な関係になってしまっていることが大きな理由の一つではないかと思っています。お互いの距離を少しでも縮めることができれば、相当違う世界が見えてくるような気がするからです。そのきっかけとして、住まい手が自分のできる範囲で、家づくりの過程に作り手の一部として参加することを積極的に提案しています。

 二つ目。住まい手にとっての暮らし作りは、家が完成したときが終着点ではなく、再出発点です。住まい手が家を「器」として、暮らしの中で「器」に手を入れ、空間を形作り、維持していきます。家づくりの段階で自ら家に手を入れることは、ちょうどよい準備になります。

 三つ目。少しは費用の足しになります。
とくに、構造材となる木、また目に触れる木に対して柿渋を塗ることを提案しています。
柿渋を塗ると木の色がとても品のある飴色になってくるとともに、機能的にも防水性、防カビ性、防腐性の向上などを見込むことができます。
そうした意匠上や機能面の理由以外に、隠れたもっと重要な理由があります。
それは柿渋塗りの特性にあります。
柿渋は、塗った直後、塗ったかどうかよく分かりません。しかし1週間もするとだんだん色付いてきます。ですので、塗るときに相当慎重に塗らなければ、とてもムラになりやすいといえます。こうした特性があるので、作業をされる方は皆さん一様に、きれいに仕上がるように、とても丁寧に作業されます。その様子は、木に愛情を注ぐ儀式のようです。
こうした経験をすることで、後々家に対する愛着の度合いにとても影響があるのではないかと思っています。